2015年12月30日水曜日

エッセイ3 ねこの表情

私は、猫に会うと、声をかける。
猫好きな人には、分かってもらえると思うが、猫は話しかける価値がある動物だ。
「ねこ」と呼びかけると、彼等はこちらを見る。
立ち止まってしっかりと見つめる猫もいれば、ちらと横目で見て急ぎ足で立ち去る猫もいる。
いずれにしても、自分が話しかけられたと認識していることは間違いない。
つまり、彼等は「人間」が「彼等」を「ねこ」と呼んでいると知っているのだ。
猫に「いぬ」と声をかけたことがないので、どのような反応をするのかは不明だが。

とにかく、そうやって猫に声をかけた時、彼等の表情は様々で、実に面白い。

今日会った猫は、きれいなグレイの濃淡の縞模様が印象的だった。
目が合うと、立ち止まった。
あ、これは撫でさせてくれるかもと期待したが、ちょっと困った顔をして、ひょいと塀に飛び上がり、去って行った。急いでいる所だったらしい。残念。

猫の表情は様々に変わる。
猫にも個性があって、それぞれの性格が垣間見える。
「ちょうど遊び相手がほしかったんだ」と、嬉しそうな表情。
「今、手が離せないんだ」と、厳しい表情。
「いいよ、遊ぼう」と、楽しそうな表情。
ちょっと悩んでから、「まあ、少し遊んでやるかな」と、余裕の表情。
「ああ、今ちょっと都合悪いんだよね」と、申し訳なさそうな表情。
「かまってほしいの? しょうがないなあ」と、寛大な表情。

時に猫は、寡黙にじっとこちらを見つめることもあれば、にゃあにゃあと熱心に話をすることもある。残念ながら、私は猫語が分からないので答えようがないのだが、とりあえず話だけは真摯に聞くようにしている。
猫は、あの大きな瞳をまん丸にして、私達をしっかり見ようとしている。
異なる種の動物が、互いの言葉も話さないのに、自分達の言葉でコミュニケーションを取ろうとするのは、奇跡的に素晴らしいことだと思う。
それは、一方通行では成立しない。相手が自分と異なる動物であることと、コミュニケーションを取ろうと努力していることを、相互に理解して初めて可能となる。
犬や猫、象やイルカなどの哺乳類、鳥類その他の動物と、人間は触れ合い、心を通わせることができる。世界中で素敵な物語がたくさん生まれている。
でもそれは、人間だけが優れているのではなくて、相手の寛大さや理解力にかなり救われていると、私は思っている。


ところで、私が猫がすごいと思うのは、彼等はいつも寝ているようで(確かに寝ているのだが)、自分がするべき日課や仕事をきちんと持ち、考えて行動している点だ。
だから、パトロールやその他の用事があって急いでいる時には、おいしそうなおやつの誘惑にも乗らない。だが、少し時間に余裕があれば、人間につきあってくれることが多い。基本的には、優しくて、甘えん坊であり、実は面倒見が良い。

私の実家で昔飼っていた猫達も面白かった。
一匹は、外で見かけると、飄々としてすたすたとわき目もふらずに歩ていたのに、家に帰って来ると、文字通りの猫なで声で甘えるのがおかしかった。

別の猫は、その地域では強かったらしく、かなり遠方での目撃情報がある程だった。ある日、私が散歩に出かけようとすると、彼も出かけるところだったらしく、出て来た。
「一緒に散歩に行く?」と聞くと、少し先で振り返り、私を待った。
その後も歩きながら、度々振り返る。
私がついて来るのを確認しているようだった。
近所を一周して「私、帰るけど」と話しかけると、彼は「あ、そう。僕はまだ終わらないから」と(いうような表情をして)違う道を歩いていった。
その時、彼が速度を速めたので、それまで私の歩く早さに合わせていたのだなと、私は思った。
もしかすると、いつもの道順を、私のために変えていた可能性もある。
彼にしてみれば、私の世話をしているつもりだったのかもしれない。
猫を散歩させていると思っていたのは、私の勝手な思い上がりだったのだと、反省。

別の猫は、知らない猫を連れて来たことがある。
可愛い顔をした白い猫だった。飼い猫ではないように見えた。
「あらまあ、彼女?」と聞くと、彼は「まあね」と(いうように)しっぽの先を振った。
彼が「おなかすいた」とごはんを欲しがったので、お皿にいれてあげた。
すると、彼は彼女に、「まあ、遠慮なく食べなよ」というような表情をして、自分は食べずに毛づくろいを始めた。
彼女が遠慮がちにごはんを食べる隣で、彼は彼女の邪魔をするものがいないように、毛づくろいをしながら辺りを見張っていた。
猫好きの人は良く知っていると思うが、猫が毛づくろいをする時は、本当の目的を隠そうとしていることが多々ある。
彼女はごはんを食べ終えると、可愛い目でこちらを見て(私には、一礼をしたと見えたほどだった)、去って行った。
彼が別の猫をわざわざ家に連れて来てごはんを食べさせたのは、その一回だけ。
猫の世界にも、いろいろなドラマがあるらしい。
真相は永遠の謎だ。




0 件のコメント:

コメントを投稿